KAWASAKI KC90-A3の小部屋
2015年6月23日
長い間我が家のバイクとして活躍したKC-90は、ついに引退となりました
ちょっと手入れしないとご機嫌損ねたり、スロー系が詰まりやすくて路上で止まったり、オーバーホールに13万円の費用と半年の期間を
費やしたりと、いろいろ手のかかる老骨でしたが、最後まで2ストマッハ系の末弟としての誇り高い走りを見せてくれました

ありがとう。相棒。
楽しかったよ。

業種に引き取られた後は解体されて海外で部品として売られるようです
外国にはまだ古いバイクが現役でがんばってますからね
その一部として生きてくれるなら、家で錆びついていくより幸せだと思いますw

以下の記事は所有していた時のものですが、記念としてそのまま掲載しておくことにしました
「こんなバイクがあったんだ」と時々思い出して頂ければ、わたしもKCも幸いですw




KC90・・・と聞いてどんなバイクか答えられたら、その人はかなりのバイク通といえる
カワサキショップの店員でもその存在を知らないことがある
現在日本で登録されて公道を走っているのはほんの数台だろう
しかし、レアなマシンというよりは「後生大事にこんなものに乗ってるヤツはいない」といったほうがいいかもしれない
古いマシンであり、環境にやさしくない2ストロークエンジンであり、当然交換部品も現存しない
いつ逝ってしまうかわからないので記録と資料を残す意味でここに掲載することにした
あまりネット上でも画像等を見かけないので、この車輌の情報を探す奇特な諸兄の一助になれば幸いだ

KC90-A3は30年前、我が家にやってきた
二輪の免許を取り、父から譲り受けて以来ずっとわたしのそばにある
父は亡くなり、今では唯一の形見になった・・・・・

現在総走行距離17000km 
12000kmの時に購入時の車体価格と同じ13万円のお金と半年の期間をかけて、広島のカワサキショップファイナルにて
エンジンと電装系のオーバーホールを行っている

KC90は、かのマッハの血を引くSSシリーズから発展したKHシリーズの末弟であるKH90の実用車バージョンだ
KH90との相違点はミッション(KHは5速リターン・KCは4速ロータリー)・ブレーキ(KHは前後ディスクブレーキ・KCは前後ドラムブレーキ)
・シート(KHはダブルシート・KCはシングルシート)・タコメーターの有無・カバー類の有無・・・・以上の五点のみで
それ以外はKHと全く同じ仕様だ

初期型のKC90は、KH90の前身であるSS90がベースになっているので、フューエルタンクの形状や
円筒形のエアクリーナーボックスなど外観が最終型であるA3とは異なる

KC90は元々警察車輌として開発されたというウワサがある
「当時、その気になれば100km/hオーバーで走れた原付スポーツバイクを交番のお巡りさんが追跡できるマシン」という
コンセプトだったらしく、スポーツ車であったSS90やKH90をベースに開発されたという・・・・(あくまでウワサだ)

エンジンは当時レース用として名を馳せたGAの直系で90ccながら10.5HPを発揮
エンジン特性はピーキーで、パワーバンドに入った途端にすさまじい加速をするので、乗った人は誰もがビビる 
振動も激しく、長時間乗っていると手が痺れてくる・・・・

新車の頃は110km/hまで刻まれたメーターを振り切っていた(現在でも80km/hは軽く出る)
マフラーからものすごい白煙を吐き、けたたましいエンジン音を上げて走る姿は往年のカワサキ2ストロークの姿そのままだ

マッハの血筋の伝統なのか、車体は強度不足でサスペンションは柔らか過ぎなのでコーナリング時は
フニャフニャのサスとフレームをなだめながらもそのしなりを利用しつつ、深いバンク角をとらずに体重移動とホールドでコントロールしながら
人車一体で曲がっていく「旧車乗り」テクニックが必要だ

以下は取扱説明書に記載されているスペックである

主要諸元
加速 12秒(0〜200m)
最高出力 10.5HP/7500rpm
最大トルク 1.0kg-m/7000rpm
全長 1.885mm
全幅 770mm
全高 1.000mm
軸間距離 1.215mm
最低地上高 150mm
車輌重量(乾燥) 92kg

エンジン
2ストローク 単気筒 ロータリーディスクバルブ
排気量 89cc
内径×行程 47.0mm×51.8mm
圧縮比 7.0:1
始動方式 プライマリーキック
潤滑方式 分離給油式(カワサキスーパールーブ)
スパークプラグ NGK B8ES

変速機
形式 常時噛合4段ロータリー式
クラッチ 湿式多板式
一次減速比 3.52(74/21)
二次減速比 2.67(40/15)
総減速比 9.40(4速)
変速比
1速 2.92(35/12)
2速 1.71(29/17)
3速 1.24(26/21)
4速 1.00(23/23)
ミッションオイル SE級SAE10W30又はSAE10W40(0.6リットル)

フレーム
キャスター 64.5°
トレール 78mm
タイヤサイズ  前輪2.50-18 4PR 後輪2.75-18 6PR
フューエルタンク容量 10リットル
オイルタンク容量 1.4リットル
バッテリー 6V6AH

電装品
ヘッドライト 6V 25/25W
テール/ブレーキライト 6V 5.3/17W
ターンシグナルライト 6V 17W
メーターライト 6V 3W
ニュートラルインジケーターライト 6V 3W
ターンシグナルインジケーターライト 6V 1.7W
ヒューズ 10A  
当時のカタログ
写真のようにシングルシートでリアキャリアを装備した
ビジネスバイクだが「目標一日30店、さあ、いくぞ!」のコピーを見ると
速さをセールスポイントにしていたことは間違いなさそうだ
使用説明書の表紙
銀もカッコいいな・・・・・
レフトサイドビュー
ダブルシートはKH90用のもの


シーソー式のシフトペダルで
ミッションは4速ロータリー式

いつも「もう一速あれば・・・」と思うw

フロント加重が軽いので
停止状態でもはずみをつけるだけで簡単に
フロントアップが可能
段差乗り越えも楽々できる

その分、ラフなクラッチワークで発進すると
ウィリーしてしまうことがある
ライトサイドビュー
長いフューエルタンク
車体中央に近い配置のエンジン
70年代のマシン独特のスタイルだ

フューエルタンクのKAWASAKIのエンブレムは
Z1やW1と同じもので
いわゆる「大文字カワサキ」だ
(現在はKawasakiと表記されている)


バックミラーはオリジナルではなく
Z200のものを流用
フロントビュー
及び
リアビュー


ヘッドライトは6v25wで非常に暗い
夜に正面から見てもぼんぼり並の明るさだ

ヘッドライトの球が切れたので
ハロゲンランプを改造してつけていたが
電圧が安定しないらしくすぐ切れてしまった
現在は昔ながらのフィラメント球を装着
スロットルの開閉に合わせて
明るくなったり暗くなったりする

当然ウィンカーもテールランプも暗い


フロントフォークは一見倒立式に見えるが
実は正立式のものに被筒(カバー)ついている
そのおかげで異物が入らず
フォークのシールは切れたことがない

タイヤは前後とも幅が細いので
あまりバンク角はとれない
KH90用のダブルシートは2008年末
オークションで新品をGET
(オリジナルのシングルシートは
経年劣化でシートが擦り切れて
中のスポンジがヘタってしまった)

左ウィンカーの上(シートの下)に
スタックアームがある

ウィンカーのケースや
リアフェンダーもメッキされている
フロント&リアともにドラムブレーキ
ドラムにしては良く利く

KHは前後ディスクブレーキだが
もしもKCがディスクブレーキだったとしたら
30年間も維持できなかっただろう


スポークはどうしてもサビが浮くが表面のみ


フェンダーもオールメッキ

ちなみに
ヘッドのステムベアリングが消耗してハンドルが
切れなくなったことがある
現在ではテーパーローラーが主流だが
このマシンのはただのボールベアリングを
硬めのグリスで埋めたものだった
新品のベアリングに交換して現在は解消
まっすぐ伸びたマフラー
無論、チャンバーなどない
「KH400のチャンバーを取り付けるとよく走る」と
バイク屋の主人に聞かされたことがある

黒いエンドの部分はねじで取り外せる
時々外して中のディフューザーを掃除する

バッフルも定期的に交換しないとオイル漬けになって
後方にオイルを撒き散らすことになる
ハンドル周り
中央に単眼メーター
左隣がキーシリンダー
その左がチョークレバー
左スイッチボックスには
ウィンカースイッチ
ヘッドライトのHi.Low切り替えスイッチ
ホーンボタン
メーター左側のハンドルについているものは
ヘルメットホルダー
右側のスイッチボックスにはキルスイッチを装備

ちなみにヘッドライトの
OFF・ポジションランプ点灯・ヘッドライト点灯の
切り替えはキー操作で行う

フューエルキャップは
カギがイグニッションキーとは別のものなので
オプションかもしれない

ハンドルバーは左右2cmずつ切り詰めてある
左側スイッチ類
このようなチョークレバーは今ではお目にかかれない
始動時・始動後に操作して暖機運転するが
調整には長年の経験と勘が必要で
加減を誤るとすぐにかぶってしまう

ヘッドライトのHi・Lowは
切り替えてもあまり光軸の高さは変らない

ウィンカーは
スイッチを入れてコンデンサに電気が溜まるまでの
タイムラグがあり、ワンテンポ遅れて点滅し始める
右側スイッチ類
こちらはキルスイッチのみ
元々オレンジ色だったが退色している
上面のエマージェンシー表示も退色している
下側にセルモーターのボタンがつきそうな
スペースがあるが平たくなっているだけで
穴も開いていない
スロットルは一本のワイヤーを途中で
2本に分ける方式でそれぞれのワイヤーが
キャブレターとオイルポンプを動かす
エアクリーナーボックスは金属製
エアクリーナーエレメントは円形の乾式
昭和60年7月27日に第一回目の交換を行っている
(その後3回交換)

フューエルコックはアームが折れやすく
操作には気を遣う

エアクリーナーのダクトの下の平らな部分に
シリアルナンバーが入っている

サイドカバーの中には6Vのバッテリーが納まり
車載工具と書類を入れるスペースがある
ロータリーディスクバルブなので
キャブレターはクランクケース内に
収められている

アクセルワイヤーのゴムカバーの上に出たノブで
気温や湿度・高度に応じてアイドリングを調整する
走行条件によっては信号待ちのたびに
微調整をしなければならない場合もある

始動はキックのみ
ロングストロークのエンジンなので
仕損じるとケッチンを食らうことになる


エンジンはオーバーホール済なので絶好調

ステップは可倒式ではないので
転倒すると曲がるかもしれない

意識的にニーグリップをすると
キックアームが足の内側に接触する
フルカバータイプのチェーンカバー
上部はメッキ仕上げだ
当時のメッキは非常に美しく耐久性も高い

駆動系全体を覆うカバーがついているため
チェーンやスプロケットの消耗が少なく
チェーンは近年交換したがスプロケットは
30年間一度も交換していない
 
スタンドはサイドとセンターの両方を装備

リアサスペンションは積載重量に合わせて
手動で3段階に調整できる
電装が6Vであるため点火系が脆弱であることが
KC90の最大の弱点だ
なるべくオリジナルコンディションを保ちたいが
不具合部分は改良する方針だ

プラグコードを導電性能の良い
NGKのパワーケーブルに交換して強化


スパークプラグはイリジウムタフに交換

現在はとても良い火が飛んでいる

右サイドカバーの中にオイルタンクが
ある
エンブレムの下の丸い穴から覗いて
エンジンオイルの残量を確認できる

給油時はサイドカバーを外す必要がある

エンジンオイルはスズキのCCISを使用
エンジンとの相性が良い

カストロールなどの高級オイルを入れると
マフラーからの白煙が濃くなり
極端に調子が悪くなる
左サイドケース
KH90の部品をそのまま使っているらしく
シフトペダルの周辺に5速リターンの
シフト表示がある

矢印の部分は前オーナー(父)が
左のケースを外そうとして
ラバーハンマーで叩いたら
エンジンシャーシの端がポロリと欠けたらしいが
見事に補修されている

溶接機もないのにどうやって直したのか不明
※撮影日 2009年10月14日
KC90が生き残れた理由

こんな過去の遺物がなぜ好コンディションで30年間もの間生き残れたのか・・・・ それにはいろいろと理由がある
何の参考にもならないだろうが、その理由を列挙してみる

☆親父の形見だった → 捨てるに捨てられない

☆ずっと軒下でカバーをかけて保管していた → 雨ざらしだとすぐに錆びて現在のコンディションは維持できなかっただろう

☆維持費が安い → 原付二種は税金も保険も安いのであまり負担にならなかった

☆雨の日に乗らなかった → 30年間で2回しか雨中走行していない

☆転倒していない → この頃のバイクは転倒一回のダメージが大きい

☆チェーンカバーがついていた → チェーンとスプロケットがあまり消耗しなかった

☆ドラムブレーキだった → 当時のディスクブレーキは発展途上で消耗しやすく、パッドやホースなどの部品は現在入手困難

☆セカンドバイクだった → 気の向いた時しか乗らなかったので走行距離が伸びなかった

☆オーバーホールした → 一時はエンジンが不調で廃棄も考えたが、オーバーホールで完全復活した

☆買い取り価格がゼロ → むしろ処分料を請求される 売るに売れない 「どうせなら乗り潰そう」という気になる

☆引き取り手がなかった → 友人に譲渡しようとしても性能の維持・車体の管理が大変で、オマケに乗るのが難しいので敬遠された

☆致命的に壊れない → 「壊れたら手放そう」と思うが、致命的に壊れないので手放す理由にならない

☆置き場所があった → 邪魔にならなかった

☆手放そうとすると人に褒められる → 普段は見向きもされないがタイミング良く褒められて手放すに手放せなくなる

☆エンジンが2ストロークである → 手放すのが惜しい理由のひとつ まさか絶滅危惧種になるとは思わなかった

☆お金がかかった → オーバーホールやダブルシートの購入などで結構な整備費がかかっているのでもったいない

☆速い → ただの遅いビジネスバイクだったら早々に手放していただろう

☆珍しい → 発売当時から珍しいマシンだったので30年間乗って路上で同じ機種に出遭ったのは3回だけ

☆周囲が妙に盛り上がる → 自分よりバイクショップなど周りの人間が珍しがって喜々として整備に取り組んでくれるので手放し難い

☆磨くと光る → 小汚いと手放す気になるが、メッキ部分をちょっと磨くとピカピカになるのでつい掃除に力が入り、結果きれいなまま維持

☆奇跡が起こり過ぎ → 壊れると「奇跡的に」部品の在庫があったり、あるはずのない新品部品がオークションに出ていたりする

・・・・と、まあ「日本で最後の奇跡の実働車」は37年間もの間生き残ったのでありましたw