エピローグ 端っこの旅を振り返って

・・・きっかけはなんだったのかさえ、思い出せない
なぜ一介の貧乏人が資金と時間と労力を費やしてこんな旅を始めたのか・・・

最初の「無謀な旅」のときは「日本のすべての端っこに行く」などとは考えもしなかった
ただ、軽自動車に新たな可能性を求めたちょっとした「冒険ごっこ」だった・・・・
そもそもこのサイトも、友人・知人に旅を説明するために作っただけのものだ
四国の四つの端っこを巡った時も、最端部を四国を一周するためのチェックポイントにしたに過ぎない
旅の終わりになって、なぜ「日本の端っこの旅」に旅立ったのか、改めて考えてみた

旅をする理由を人に問われた時はこういう
「軽自動車で日本の端から端まで行けることを実証するため」
また、その方法について問われた時はこういう
「普通車で行くとただの自動車旅行だが、軽で、ひとりで、車中泊で行くと冒険になるから」
・・・・確かにどちらも自分の心の一隅にあることだが、これが決してすべてではない
これは人に説明するためのちょっと格好つけた表題に過ぎない気がする

たしかに「無謀な旅」で、軽自動車でもかなりの長距離旅行が可能だということを自ら実証した
初日に記録した一日の走行距離1524kmは自己最高記録であり、二度と出来ない芸当だ
たぶんその時が「行けるはずがない」ものが「行ける」に変った瞬間だったのだろう

それは、トッポBJというタダモノでない軽自動車のおかげでもある
バブル末期、スズキのアルトワークスに対抗するために、ミツビシが世に送り出したミニカダンガンと
同じ高性能エンジンを搭載したトールボディの奇妙な軽自動車は、想像を絶する性能を発揮してくれた
燃費度外視、パワー最優先で設計されているためエコには程遠いが、軽でありながら普通車と変らない
走行性能で過酷な旅を支えてくれた
オートマチックでなくマニュアルミッションであることもその一助となった
相棒がこのクルマでなければ、こんな旅は不可能だっただろう・・・・

閑話を離れ旅の話に戻ろう
より遠くを目指して旅をすると、自然に一番端っこにたどり着く
「火曜サスペンス劇場」でも、犯人が最期にたどり着くのは岬の崖っぷちだ
そこから先に逃れる場所がない「追い詰められた」という緊迫感が伝わる
わたしたちは逃亡者ではないのでそこでUターンすれば済むのだが、逃亡者にとっても、旅人にとっても
そこは「より遠くを目指した者の終着点」なのだ

「北海道に行った」
「どこまで行った?」
「一番端っこまで」
そう答えることができる
その先の無い、行ける限界まで行く・・・
端っこを目指す旅は究極を求める旅に他ならない

当初は「日本の一番端っこ」ということで日本本土の東西南北の端を目指していた
ところが、
いつの間にか北海道・本州・九州・四国のすべての「端っこ」を目指していた
挙句の果てには、自動車で到達可能な「斜め端っこ」にまで手を出した
だからこの旅日記には、途中で「達成した」「コンプリートした」と何度も書いている
どこでキリをつけるべきなのか迷っていたのだ・・・・
自分で勝手に始めた旅だから、どこでやめても自由なはずなのに、なぜかやめられなかった
わけのわからない使命感まで湧いてきて、そんな自分が滑稽でならなかった

一体そこになにがあるのか?
具体的にはなにもない・・・・絶景ではあるが、せいぜい灯台が建っているだけだ
今回の北海道最西端尾花岬が良い例で、行ったところで本当に何もない所もあるのだ
そこへ行って得るものはなんだったのだろう・・・

自己満足? 達成感? 誰かに自慢したいから?

どれも違う
その本当の理由を考えて、考えて、考えて・・・そして考え疲れてしばらく忘れていると、
ある日ふと思い出した

・・・・子供の頃
「世界の果てってどんなところだろう?」といろいろ想像を巡らせて眠れなかった記憶がある
やがて疑問は憧れに変り、
「大人になったら絶対に世界の果てに行くんだ」と子供の夢は膨らんでいった・・・

小学生の頃「地球は丸いから世界に果てはない」と知ると
「じゃあ、日本の果てはどんなところなんだろう?」と考え始めた
大人たちに
「日本の端っこはここです」と地図を指差されても
「そうじゃなくて・・・」と納得いかなかった
「どこか?」ではなく
「どんなところか?」なのだ

そんなことをすっかり忘れて大人になった
バイクやクルマという「旅する足」を得たが、そのことをなかなか思い出せずにいた

そして
トッポBJと旅を始めてふと思い出したのだ

「大人になったんだから確かめに行こう」

「無謀な旅」で「行ける」とわかった時に、それは「行こう」に変った
そして「行き先」はもう決まっていた・・・

記憶の底の、奥底に眠る「冒険の種」が、奇妙な「相棒」との出会いによって芽を吹いたのだ
冒険の種は、朽ちることがない
人生の風雪に耐え、じっと芽生えの時を待っているのかもしれない・・・・

人間が生きている間に移動できる範囲はたかが知れている
世界中飛び回っている人でも、訪れる場所はピンポイントに過ぎない
世界のすべてを旅した人はいない
人々にとって「見知らぬ場所」は無数に存在する

だからこそ人間は、旅に憧れる
自分が住んでいる場所とは全く違うであろう、見知らぬ場所・・・
そこが本当に良い所かどうかは実際に住んでみないとわからないのだが、
せめて一目だけでも見てみたい
どんな色で、どんな香りがして、どんな風が吹き、どんな人々が住んでいるのか・・・・

旅に憑かれるということは、まだ見ぬその地に淡い恋をするということらしい

この旅を終え、達成感に満ち溢れているが、それ以上にこの目で見てきた
最果ての地の景色を、いつでも脳裏に映し出せることに幸せを感じている
みな、想像通りの、また、想像以上の美しい姿を見せてくれた
そこへ至るまでの辛かったこと、苦しかったことも最良のエッセンスだ

わたしなりに、読者の方々に旅の雰囲気を味わって頂けるように無い知恵を絞ってあれこれ工夫して
ご紹介したつもりだが、所詮は素人なのでこの程度で精一杯だったことをお詫びしたい
それでも「旅した気分になれました」とのお便りを頂き、とてもありがたいことだと感謝している・・・・

こうして旅を紹介できた
しかし、唯一、ここでは提示できないものがある
それは旅をした「実感」だ
旅をした「実感」こそがわたしだけの一生の宝物だ
わたしの心の中から誰にも取り出すことの出来ない「鮮やかな記憶」であり
旅をした者だけに与えられる唯一の「ご褒美」であると思う



2013年9月21日 広島じゃけん



 
日本の端っこの旅 総決算
総日数 41日間
総走行距離 18183.0km  
使用燃料 ハイオク673.09リットル レギュラー413.42リットル 合計1086.51リットル
平均燃費16.05km/リットル
総予算62万円(道路通行料・燃料代・乗船料・食費・宿代含む)